
「もっと成長したい」と言わない部下は、なぜ生まれるのか
① 経営者の悩み
「資格取得の補助も出すし、研修にも行かせてあげてるのに、どうしてうちの子たちはもっと貪欲になれないんだろう…」
ある製造業の社長は、ため息まじりにそう漏らしました。
真面目に働いてはくれる。遅刻もしないし、任せた仕事はきちんとこなす。けれど、面談で「今後どうなりたい?」と聞いても、返ってくるのは「今のままで大丈夫です」という一言だけ。
叱るような問題があるわけではありません。むしろ優等生です。だからこそ社長は、何にどう手を打てばいいのか分からず、一人で抱え込んでいました。
多くの経営者様が、夜な夜な同じ悩みを繰り返していらっしゃいます。「意欲を出せ」と言っても、社員の心には響かない。そんなもどかしさは、決して珍しいものではありません。
② なぜ起きるのか(心理・労務の視点)
この問題、実は「本人のやる気の問題」だけで片づけてしまうのは早計です。背景には、心理面と仕組み面、両方の要因が隠れています。
心理的要因:
過去に高い目標を掲げて失敗し、上司から強く叱責された経験があると、人は「目立たず、失敗しないこと」を無意識に安全策として選ぶようになります。
これは心理学で「学習性無力感」と呼ばれる状態に近く、本人の資質ではなく、過去の経験によって後天的に作られたブレーキです。
例えば、
- 頑張っても評価されなかった。
- 新しいことに挑戦して失敗したら責められた。
- 上司から否定されることが多かった。
- 「余計なことはするな」と言われ続けた。
このような経験が積み重なると、人は次第に
「挑戦しない方が安全だ」
と学習してしまいます。
その結果、
「もっと成長したい」ではなく、
「失敗したくない」という気持ちが強くなってしまうのです。
一方で、
- 挑戦を認めてもらえた。
- 小さな成功を一緒に喜んでもらえた。
- 失敗しても学びとして受け止めてもらえた。
そんな環境では、人は自然と
「もっとできるようになりたい」と思えるようになります。
つまり、
「成長したい」という意欲は、個人の資質だけで生まれるものではなく、職場の文化によって育まれるものでもあるのです。
だからこそ、管理職に求められるのは、
「なぜ成長したいと思わないのか」と責めることではありません。
「この職場は挑戦しても大丈夫だ」と感じられる環境をつくること。
その積み重ねが、自ら学び、自ら成長しようとする社員を育てていくのです。
労務・仕組み的要因:
評価制度が「挑戦した過程」ではなく「結果」だけを見ていると、社員は挑戦するだけ損だと学習してしまいます。
また、キャリアパスが不透明で、成長した先に何があるのかが見えない会社では、そもそも「成長する意味」を見出しにくいのです。
つまりこの問題は、社員の心理的なブレーキと、会社の評価・キャリアの仕組みが噛み合っていないときに起こります。どちらか一方だけを直しても、根本的な解決にはつながりません。
③ 今日からできる対策
いきなり大きな制度改革をする必要はありません。まずは小さな一歩から始めてみてください。
- 1on1で「嬉しかった瞬間」を聞いてみる
「なぜ成長しないの」と問い詰めるのではなく、「仕事でやっててよかったと思う瞬間はどんな時?」と尋ねてみましょう。
そこに、本人が本来持っている意欲の種が隠れています。 - 評価項目に「挑戦したプロセス」を加える
結果だけでなく、挑戦した過程を評価に反映させる仕組みを、まずは一つだけでも見直してみてください。
失敗しても評価が下がらないという安心感が、次の一歩を後押しします。
ハードルは低くて構いません。まずはここから始めてみましょう。
④ 社労士としての一言
経営は孤独なものです。人と組織の問題には、教科書通りの正解が見つかりにくいものですよね。
でも、こうして悩んでいらっしゃること自体が、社員と真剣に向き合っていらっしゃる証拠だと、私は思います。
仕組み(評価・労務)を整えれば、社員の心理的な安心感も変わり、会社の未来も必ず変わっていきます。一人で抱え込まず、いつでもお気軽にご相談くださいね。