注意した内容を録音され、「証拠がある」と言われた

ある会社を営むNNさんのもとで、店長のLLさんが、勤務態度に課題のある社員MMさんへ、業務改善の注意を行っていました。事実に基づいた、いつも通りの指導のつもりでした。

会話が終わりかけたその時、MMさんがぽつりと言いました。

「今の話、録音してますから。証拠がありますので」

LLさんの背筋に、冷たいものが走りました。何か問題のある発言をしてしまっただろうか。言葉を思い返しても、はっきりとは分か

りません。しかし「証拠がある」という響きだけが、頭の中に重く残り続けました。

それ以来、LLさんはMMさんへの指導を、極端に避けるようになっていきました。何を言っても、また録音され、都合よく切り取られて使われるかもしれない。その恐れが、必要な指摘さえも飲み込ませてしまったのです。

結果として、MMさんの業務態度は改善されないまま放置され、他のスタッフの間にも「MMさんだけ何も言われない」という不満が広がり始めました。LLさんは、萎縮したまま、何も変えられずにいました。

この状況を聞いたNNさんは、LLさんに一つの問いを投げかけました。

「録音されて、困る内容を話していましたか」

LLさんは、少し考えてから答えました。「いいえ。事実だけを、いつも通り伝えていたと思います」

NNさんは続けました。「それなら、録音されていること自体は、恐れる必要がありません。むしろ、正しく指導していたことの証明にもなります。

変えるべきは、指導をやめることではなく、いつ録音されても大丈夫な伝え方を徹底することです」

その言葉で、LLさんの中の恐怖は、少しずつ和らいでいきました。問題は「録音される」ことそのものではなく、「録音されたら困る内容を話してしまうかもしれない」という、自分自身への不安だったのです。

対策として押さえるべき点は、次の通りです。

まず、録音されることを恐れて、必要な指導そのものをやめないことです。指導を止めれば、問題は放置され、他の社員との不公平感だけが広がっていきます。

次に、指導の内容を、いつ誰が聞いても問題のない形に整えることです。感情的な言葉を避け、事実と業務上の影響だけを、落ち着いた口調で伝える。これができていれば、録音は脅威ではなく、むしろ適切な対応をしていた記録になります。

そして、重要な注意や指導の場面では、可能な限り第三者(人事担当者など)を同席させることです。密室での一対一を避けることで、「言った言わない」の水掛け論そのものを防げます。

さらに、口頭でのやり取りと合わせて、指導内容を書面やメモにも残しておくことです。録音がどう使われても、こちらの記録と食い違わなければ、恐れる材料にはなりません。

最後に、「証拠がある」という言葉に、即座に怯んだり謝罪したりしないことです。まずは何を話したかを冷静に振り返り、落ち着いて向き合う姿勢を崩さないことが大切です。

録音そのものは、敵にも味方にもなります。それを決めるのは、録音機の有無ではなく、その場でどんな指導をしていたか、その一点です。