
「研修は、やったはずなんですが」
ある製造業を営むKKさんは、数年前に社内で起きたハラスメントの訴えをきっかけに、全管理職を対象とした研修を導入しました。
外部講師を招き、丸一日かけて行った本格的な内容でした。研修後のアンケートには「勉強になった」という声が並び、KKさんは、これでようやく職場の空気が変わるだろうと、安堵していました。
しかし半年後、状況はほとんど変わっていませんでした。
ある管理職は、相変わらず部下を人前で強い口調で叱責し続けていました。若手社員たちは以前と同じように、萎縮したまま声を上げられずにいました。
匿名アンケートを実施したところ、「相談窓口はあるが、使えば報復されそうで怖い」という回答が、複数寄せられていたのです。
KKさんは、深く困惑しました。「研修は、やったはずなんです。なぜ、何も変わらないのでしょうか」
答えは、思いのほか単純なところにありました。研修は、知識を伝える場ではあっても、行動そのものを変える場ではなかったのです。
受講した管理職たちは、ハラスメントの定義や事例を「知識として」学びはしましたが、自分自身の日々の振る舞いを、その知識と結びつけて振り返る機会までは、与えられていませんでした。
さらに、KKさんは、ある事実にも気づかされました。相変わらず高圧的な態度を取り続けていたその管理職は、同時に社内で最も業績を上げている人物でもあったのです。研修で「変わってほしい」と伝えながら、評価や処遇では、これまでと同じ基準で厚遇し続けていました。社員たちは、その矛盾を敏感に見抜いていたのです。「結局、数字さえ出していれば、何も変わらないんだ」と。
研修という”言葉”と、評価という”行動”が食い違っている限り、どれだけ立派な研修を重ねても、現場は本気にしません。
対策として押さえるべき点は、次の通りです。
まず、研修を一度きりの行事として扱わないことです。知識は時間とともに薄れ、日常の行動に定着するには、繰り返しの機会が必要です。
次に、経営者や管理職自身が、率先して行動で示すことです。研修で語られた内容と、実際の評価や処遇が矛盾していれば、現場はその矛盾の方を本物のメッセージとして受け取ります。
そして、相談窓口が実際に信頼されているかを確かめることです。窓口が存在することと、安心して使われていることの間には、大きな隔たりがあります。匿名調査などを通じて、その信頼度を定期的に点検する必要があります。
さらに、成果を「研修の実施率」ではなく、「現場の実態の変化」で測ることです。受講者数や満足度アンケートは、変化の証拠にはなりません。
最後に、日常のマネジメントの中に、学んだ内容を組み込み続けることです。研修は入り口にすぎず、1on1や日々の指導の場でこそ、本当の定着が試されます。
研修は、変化のきっかけにはなりますが、変化そのものではありません。現場が本当に見ているのは、研修の内容ではなく、その後も変わらない、経営者自身の行動です。