従業員を家族のように思っていたのに、裏切られた気持ちになった
専門情報「後継者だと思っていたのに」——右腕社員の独立に、経営者が深く傷つく理由 ① 経営者のリアルな悩み 入社から10年近く、右腕として一緒に働いてきた社員がいました。 将来は店を任せたい。そう思って、他の社員には話さない経営の数字も見せてきましたし、取引先との交渉にも同席させてきました。ボーナスも、他の社員より少し多めに包んできたつもりです。 ある日、その社員から「独立します」と告げられました。しかも、同じ地域で、似たような業態のお店を始めるというのです。さらに数週間後、仲の良かった若手スタッフが2人、後を追うように辞めていきました。 「あれだけ目をかけていたのに。」 「まさか、同じ場所で商売を始めるなんて。」 頭の中で何度も繰り返してしまう。そんな夜を過ごされた経営者様は、決して少なくありません。 ② なぜ起きるのか(心理・労務の視点) そもそも、「裏切り」とはどのような感情なのでしょうか。 心理学には「互恵性規範」という考え方があります。人は「これだけ与えたのだから、同じくらい返ってくるはずだ」という、目に見えない貸し借りの感覚を無意識に築いています。 裏切りとは、この貸し借りの感覚が一方的に破られたと感じたときに生まれる痛みなのです。長く目をかけてきた相手であるほど、その痛みは深くなります。 では、なぜここまで強く感じてしまったのでしょうか。背景には、2つの見えにくい要因があります。 心理的要因: 「将来は任せたい」「右腕だと思っている」という期待は、実は本人にはっきりと言葉で伝えていなかったケースが多く見られます。経営者様の中では確かな約束のつもりでも、社員側には「なんとなく期待されている」という、輪郭のあいまいなものとして受け取られていた可能性があります。 労務・仕組み的要因: 独立や転職に関するルール(競業避止義務や秘密保持契約など)が、書面として結ばれていなかったのではないでしょうか。将来のポジションを口約束で示す一方、今の給与や権限が「番頭格」としての貢献に見合っていなかった場合、本人の中に静かな不満が積もっていた可能性もあります。 信頼していたからこそ、あえて契約書という形を持ち出すのがはばかられる。そう感じるお気持ちはよく分かります。 しかし、その遠慮が、後々の深い傷につながってしまうことがあるのです。 ③ 今日からできる対策 このすれ違いを防ぐために、今日からできる小さな一歩をご紹介します。 期待していることを、言葉と書面の両方で伝える 「将来は任せたい」で終わらせず、いつ、どんな条件で、どこまでの権限を渡すのかを、具体的な言葉にして伝えてみてください。あわせて、キャリアパスとして書面に残しておくと、双方にとっての安心材料になります。 良好な関係のうちに、独立・退職時のルールを整えておく 競業避止や秘密保持について、関係がこじれてから結ぼうとしても手遅れです。信頼関係があるうちにこそ、こうした取り決めを交わしておくことをおすすめします。 ④ 社労士としての一言 社員がどのような選択をするかは、正直なところ、経営者様がコントロールできることではありません。 けれども、期待の伝え方や、独立時のルールをどう整えておくかは、今からでも自分たちの手でコントロールできることです。 過ぎてしまった選択を嘆き続けるより、コントロールできることに目を向けて、次の一歩を整えていく。それが、同じ痛みを繰り返さないための、一番確かな方法だと考えています。 一人で抱え込まず、いつでもお気軽にご相談くださいね。 続きを読む