
「誰を信じればいいのか分からない……」
ある日、一人の女性社員が社長室を訪れました。
「相談したいことがあります。」
少し緊張した表情で切り出したのは、上司からセクハラを受けているという訴えでした。
社長は驚きました。
名前が挙がったのは、長年会社を支えてきたベテラン管理職。
真面目で責任感が強く、社内でも信頼されている人物でした。
「そんな人が本当に……?」
一方で、勇気を出して相談してくれた社員の言葉を軽く受け止めることもできません。
どちらか一方を信じれば、もう一方を傷つけてしまう。
社長は、その場で何も判断することができませんでした。
しかし、そのまま時間だけが過ぎていきます。
相談した社員は、
「会社は何も動いてくれない。」
と不信感を抱き始めます。
一方、何も知らされていない管理職は、いつも通り仕事を続けています。
社内には少しずつ噂が広がり、職場の空気は重くなっていきました。
実は、このようなケースで最も多い失敗は、「事実が分からないから動けない」と考えてしまうことです。
セクハラの相談があった時、経営者に求められるのは、その場で白黒を判断することではありません。
まずは、事実を丁寧に確認することです。
最初に行うべきなのは、相談者から落ち着いて話を聞くことです。
「いつ」
「どこで」
「誰が」
「何をしたのか」
できるだけ具体的な事実を時系列で整理します。
その際、大切なのは、最初から決めつけないこと。
相談者を疑うことも、加害者とされる人を犯人扱いすることも避けなければなりません。
次に、必要に応じて関係者からも事情を聴き、客観的な資料やメール、チャットなどの記録がないかを確認します。
そして、加害者とされる社員にも、十分に話を聞く機会を設けます。
経営者が守るべきなのは、「誰かの味方になること」ではありません。
公平な手続きによって、事実を明らかにしようとする姿勢です。
その姿勢が、相談した社員の安心にもつながり、訴えられた社員の権利を守ることにもなります。
セクハラの問題は、感情だけで判断してはいけません。
逆に、「証拠がないから何もしない」という対応も、大きなリスクになります。
だからこそ、事実確認の手順を踏み、一つひとつ冷静に整理していくことが重要なのです。
もし判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
会社を守るのは、「早い結論」ではありません。
誰もが納得できる、公平で丁寧な事実確認なのです。