
「彼が辞めたら、売上まで消えた」
ある中小企業には、社長が絶大な信頼を寄せる営業社員がいました。
営業力が高く、顧客からの信頼も厚い。
大口顧客の多くを一人で担当し、新規案件も次々と取ってくる。
社長も、
「彼がいれば、うちは大丈夫だ」
と思っていました。
ところがある日、その社員から突然、
「社長、お話があります。退職させてください」
と告げられます。
社長にとっては青天の霹靂でした。
慌てて引き留めましたが、本人の意思は固く、数か月後に退職。
問題は、その後でした。
売上が落ち始めたのです。
後任者をつけても、顧客との関係性が分からない。
営業の進め方も分からない。
見積りの勘所も、顧客ごとの注意点も、その社員の頭の中にしかありません。
さらに、
「○○さんがいなくなったのなら……」
と取引を縮小する顧客まで現れました。
そこで社長は、初めて気づきます。
「会社に売上がついていたのではない。彼についていたんだ」
優秀な社員は「辞めないようにする」だけでは守れない
もちろん、優秀な社員が長く働きたいと思える会社をつくることは大切です。
しかし、
「この人だけは辞めないだろう」
を経営の前提にするのは危険です。
独立するかもしれない。
もっと条件のよい会社へ転職するかもしれない。
家庭の事情で退職するかもしれない。
病気や事故で突然働けなくなることもあります。
つまり経営者が考えるべきなのは、
「どうすれば優秀な社員を辞めさせないか」だけではなく、
「優秀な社員が辞めても売上が崩れない会社をどうつくるか」
という問題です。
解決のヒント
一度、社内でこんな質問をしてみてください。
「明日、最も優秀な社員が突然いなくなったら、何が止まるだろう?」
顧客との関係。
営業ノウハウ。
見積り。
技術。
仕入先との交渉。
クレーム対応。
重要な判断。
一人が抜けただけで止まるものが多いほど、その会社は「人に依存した経営」になっています。
そこで必要なのが、
属人化 → 共有化 → 標準化 → 仕組み化
です。
優秀な社員の仕事を単純なマニュアルにするだけではありません。
「なぜこの顧客にはこの提案をするのか」
「何を見て優先順位を決めているのか」
「トラブルの兆候をどう見抜いているのか」
といった、優秀な人の頭の中にある判断基準まで会社の財産に変えていくことが重要です。
そして、顧客との関係も、
「○○さんのお客様」から「会社のお客様」へ。
担当者だけでなく複数の社員が顧客と接点を持ち、情報を共有し、誰かが抜けても引き継げる状態をつくります。
「優秀な社員が辞める会社」が弱いのではない
社員が辞めること自体をゼロにすることはできません。
本当に怖いのは、
一人辞めただけで、売上まで一緒に辞めてしまう会社です。
優秀な社員を大切にする。
同時に、その人がいつか会社を離れることも経営上の前提にする。
これは社員を信用しないという話ではありません。
むしろ、
「人を大切にする経営」と「人に依存しない経営」を両立させる。
そこまでできて初めて、優秀な人材が入れ替わっても成長を続けられる、強い会社になるのではないでしょうか。
