あしたの準備

解雇の種類とそれぞれがもたらす影響

はじめに

労働者が会社を辞める際、二つのカタチがあります。労働者自身の事前の申告により雇用契約が終了するケースと、会社側の意思によって一方的に雇用契約が終了するケースです。

後者が解雇です。解雇は、一方的な労働契約の解約なのですから、労働者の承諾は必要ありません。とはいえ、日本の労働法制下では、従業員を簡単に解雇できません。それを理解せずに解雇の手続きを進めてしまったら、裁判などになり、沢山の時間・労力・金銭的な支払いを強いられることになるのです。そこで、今回は「解雇」をテーマにお話いたします。

解雇の種類・起こりうるリスク

解雇は紛争化するリスクが非常に高いです。紛争化すれば、SNS上で炎上したり、合同労組ユニオンがやってくるかもしれない。そんなことになれば、会社イメージ・社会的信用の失墜がとても大きく、『収益』低下につながりかねません。

解雇には、大きく分けて4種類あります。『懲戒解雇』・『諭旨解雇』・『普通解雇』・『整理解雇』です。

順にみていきます。

◎『懲戒解雇』

まず『懲戒解雇』です。解雇の中で最も最も厳しい措置とされています。目的は、『会社内の秩序を著しく乱した労働者』に対するペナルティです。この方法を取るのであれば、いわゆる即時に解雇することも可能です。従業員としての身分を失い、退職金も支給されず、さらに『解雇予告』または『解雇予告手当』の支払もなされないということです。

それにより、その従業員は大変な不利益を被ることになります。実は再就職する際、『懲戒解雇』になったことを次の会社に申告しなくてはいけないのです。つまり、労働者に一生ついて回るということです。そのため、『懲戒解雇』を死刑宣告と重ねる人が多いです。

そもそも解雇は会社側の一方的な意思表示で行うことが出来ます。ですから、不当な解雇が行われるようなことがあれば大変です。そこで様々な問題解決の方法が生まれたのです。

その一つが裁判。要するに解雇は社長の判断で行うことができても、裁判では不当だとして、ひっくり返される可能性があるということです。

そもそも、絶対に『懲戒解雇』にできるという案件は非常に少ないです。それだけ解雇はハードルが高い。解雇が有効か無効かの判断は、『起こした行為』そのものだけではなく、その人の役職、責任の重さ、業種、仕事環境などででも変わってきます。

懲戒解雇は、『解雇予告』または『解雇予告手当』の支払が必要ありません。ですが、実務的には懲戒解雇であっても多くの会社で解雇予告または解雇予告手当の支給をしています。それはなぜでしょうか?

それは即時解雇をするには労働基準監督署の認定が必要だからです。この認定を受けるのは大変難しい。もし認定が下りなければ解雇予告手当の支払いが結局求められるのです。

そもそもの話、懲戒解雇は普通解雇に比べて、格段に『有効性のハードル』や『紛争リスク』が上がります。しかも、後日、解雇された従業員が「不当解雇」として会社に裁判を起こすケースが非常に多いのです。

そして、裁判所は『懲戒解雇』の有効性について、『普通解雇』よりも厳格な態度で審査します。注目するのが『労働者の「規律違反行為の程度』です。解雇されてもやむを得ない程、悪質なものであるかどうか』をチェックするのです。さらに、解雇した労働者に対して、会社が指導や警告をしたかも注視します。段階的にこれらを行い、改善するチャンスを与えたかどうかをチェックしているのです。

仮に適正な懲戒解雇であっても、労働者が納得せず、裁判になれば、『時間』と『労力』と、『お金』が消えていくことになります。そのため、『懲戒解雇』が可能なケースであっても、あえてそのようなリスクは犯さず、『普通解雇』で納めている会社が大半なのです。

◎諭旨解雇

『諭旨』とは、理由を諭し告げるという意味。会社が強制的に処分を下すのではなく、会社と労働者が話し合い、あくまでも両者納得の上で解雇処分を受け入れるという形を取ります。最も重い処分である『懲戒解雇』に相当する問題を起こしたとしても、情状酌量の余地がある場合にあえて選びます。

具体的な手順はこうです。まず会社が労働者に『退職届』や『辞表』の提出を提案します。そして、それでも退職届や辞表が提出されなかったときに、『懲戒解雇』が行われる。諭旨解雇が行われる場合、「解雇予告手当」や「退職金」も支給されるケースも多いです。

◎普通解雇

『普通解雇』は、社員の勤務態度、仕事の能力などを理由に行われる解雇です。

労働者には、雇用契約に定められた『契約内容』の履行が求められます。この「義務」のことを「債務」といいますが、この債務を果たさなかったこと(=『債務不履行』)に対して課される、最も重い処分が「普通解雇」なのです。

この債務と義務の線引きが難しいです。つまり、どこからが権利の濫用となるかがハッキリしないのです。そこで注目されるのが「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」と言うものです。

要するに、『解雇の原因となった行為』が軽微で、これで解雇になるのは酷な場合や、この会社における過去の同様のケースにおける取扱いとバランスを欠く場合には、解雇は無効となります。裁判等におけるこの判断基準は、「基本的に労働者に有利」というのが専門家の共通認識なのです。

なお、『懲戒解雇』の場合、雇用保険を申請後3か月間もらえません。ですが、『普通解雇』であれは、すぐもらえます。また、もらえる期間も長めになるケースが多いです。理由は、『懲戒解雇』は、労働者本人の起こした問題による退職だということになるからです。反対に「普通解雇」は、「会社都合退職」となります。ただし、『退職金』は減額にされることが多いです。

◎整理解雇

最後に『整理解雇』。企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇です。『普通解雇』や『懲戒解雇』が行われるのは、基本的に労働者側に原因があります。しかし、『整理解雇』の場合は、労働者側ではなく、会社側の『経営上の理由』から行われるものです。会社に責任があるのですから、適切かどうかの判断のハードルは高くなります。

『整理解雇』は、裁判例が充実し、判断基準が確立されています。

具体的には次の4つです。

①人員削減の必要性

②解雇を回避するための努力を十分しているか

④手続きの相当性

③対象者の選定方法の合理性

『人員削減の必要性』とは、簡単に言うと、人員を削減する必要がそもそもあるのかということです。この判断は裁判所によって一律ではなく、それぞれの事案に応じた判断がなされています。一般的に『人員削減を行わないと必ず倒産する』というところまでは要求されていません。『債務超過』の状態だったり、『赤字』の状態が慢性化しているのであれば、人員削減の必要性が認められることが多いです。

解雇について考える前に知っておくこと

『解雇』は人の問題。人である以上、『法律論』を理路整然と唱えれば解決するほど、単純ではありません。『知識』に加えて、『相手の心情に対する配慮』も求められます。

そもそも経営者の多くは、とにかくリスクをゼロを目標にします。しかし、現実の社会においてリスクがゼロになることはあり得ません。リスクは最小化する。同時にリスクが具現化したときの対策を打っておくというのが現実的なスタンスです。

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