あしたの準備 いったん決めた労働条件を後になって悪く変える方法 |
はじめに
『定められた労働条件を落とすこと』は、従業員の既得権を奪い、不利益な労働条件を課すこと』です。原則、一方的にこうしたことを行うことは認められません。約束は守る、ビジネスにおける最も大事な約束事です。ですが、ビジネスシーンでは、判断に悩む場面、正義だと思われることが通用しない、不条理な場面も時として起こります。
実は、法律はその点をすでに考慮して作られています。労働契約法には、『労働者と会社の双方の合意』があれば、労働条件の変更ができるという定めがあるのです。
労働条件を変更する方法は3つある

労働条件を変更する方法は次の3つです。
- 新たな労働協約の締結
- 労働者の個別同意
- 就業規則の不利益変更
◎新たな労働協約の締結
まず『労働協約の締結』ですが、この方法は、労働組合がない会社は使えません。ほとんどの企業に組合は存在しないという理由から、ここでは説明を割愛させていただきます。
◎労働者の個別同意
次に、『労働者の個別同意』です。要するに、労働者1人1人に同意をもらうということです。但し、『同意』をもらったケースでも、その内容も様々です。例えば、『錯誤(民法95条)』、『詐欺』、『脅迫(同96条)』に基づくものであれば、ないに等しい。ですから、単に同意さえ取れればどんな手段を用いてもいいというのではなく、後でトラブルにならない形でもらわなくてはいけません。
同意をもらう際に欠かせないことがあります。それは正確な情報を相手に提供すること。そして、自由な意思で判断してもらうことです。労働者に事前に与えるべき情報は、『労働条件を変更する理由』、『変更する内容』、『会社の経営状況』といったものです。
『錯誤』とは:
『勘違い』のこと。例えば、「シャネル半額セール、保証書付き」というチラシを見て、シャネルだと思って買ったとします。ですが、実は偽物。この場合、仮に契約が成立していたとしても返品できるケースもあります。
『詐欺』とは:
他人をだまして、損害を与えること。
『脅迫』とは:
相手に恐怖心を与え、従わなければ害悪を加えるぞと脅すこと。
話を元に戻します。労働者から同意を取る際の注意点です。『同意』をとる際には、1人1人『書面』を取り交わすようにしましょう。つまり、何も言わないでも分かるだろうという発想は避けて下さい。
例えば、『所定労働時間』について、会社が一方的に1日30分延長するケースを考えてみます。この場合、黙示の同意をもらったという主張は通じません。『少なくとも半年間、労働者は文句も言わず働いていた』と反論しても通用しない。紛争になれば『法内残業代』が未払いだと認められる可能性があるのです。
なお、『個別に同意をとること』自体にも、議論のあるところです。労働契約法には、『就業規則を下回る合意を無効とする』という規定(労契法12条)があるからです。ですから、ほとんどの労働者から『同意』がとれた段階で、併せて『就業規則』の内容も改めることをお勧めいたします。
◎就業規則の不利益変更
労働条件を変更する方法の最後。『就業規則の不利益変更』についてです。この方法は、変更内容が『合理的』であり、労働者に『周知』したときに限り、認められます。(労契法10条)
ただ、『合理的』という言葉自体があいまいで、掴みづらい。『合理性のあるなし』はどのように判断するのでしょうか。
簡単に言えば、『労働条件の変更の必要性』と、『労働条件の変更によって労働者が受ける不利益の程度』を天秤にかけるのです。両者を比較して、総合的に判断する。『労働者に与える不利益』が大きければ大きいほど、『変更の必要性』もそれだけ高くないと認められないということです。
そこで会社はどのようにして天秤のバランスを取るのか、具体的にみていきます。
第一に知って頂きたいのは、労働者の立場に立って考えないとうまくいかないということです。
例えば、『明日から給料を下げる』と「急に」言われたら、誰しも反発します。また、給料の下げ方があまりひどいと生活ができなくなります。『変更する理由』を説明されたとしても、『客観的な証拠』がないと、誰しも疑いの目を持ちます。
そこで、時間的に猶予を与えたり、別の形で代償を支払ったり、正確に判断できるように『話し合いの機会』をたくさん持つようにするのです。
対処方法は様々。『合理的』だと認められるように、しっかりとした『それを基礎付ける事情』を積み上げていきます。
ただ、どの方法を取るにせよ、『労働条件を不利益に変更する必要性』が生じた場合は、専門家のサポートを受けた方がいいと思います。厳しい経営状態の中、さらに泥沼の紛争はあってはならない事態。第3者である専門家が入ることで、『労働者に安心感』を与えることもできます。
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