「またトイレ?」休憩ばかりする従業員

ある会社に、勤務中に何度も席を離れる従業員がいました。

朝礼が終わって30分するとトイレへ。

戻ってきたと思ったら、しばらくしてまたトイレへ。

その後も飲み物を買いに行ったり、少し休んだり。

一回の離席はそれほど長くありません。

しかし、一日に何度も繰り返されるため、周囲の従業員から不満が出始めました。

「またいないですよ」

「私たちは忙しくて休む暇もないのに……」

社長も気になっていました。

とはいえ、相手はトイレに行っていると言います。

「トイレまで会社が口を出していいものなのか?」

そう考えて、強く注意することもできずにいました。

ところが、ある繁忙日のこと。

みんなが忙しく働いている最中に、その従業員がまた席を立ちました。

社長はとうとう我慢できなくなります。

「またトイレ?」

「はい」

「もういいよ。そんなに仕事が嫌なら、もう会社に来なくてもいいから

従業員は黙って帰ってしまいました。

社長としては、

「いい加減にしてくれ」という意味で叱っただけ。

ところが数日後、従業員から連絡が来ます。

「社長から『もう会社に来なくていい』と言われました。解雇されたと認識しています」

今度は会社側が慌てることになりました。

まず重要なのは、

「トイレの回数が多い=サボっている」

と直ちに決めつけないことです。

本人に健康上の事情などがあるかもしれません。

そのため最初に、

「最近、勤務中に席を離れることが多いようですが、何か事情がありますか?」

と確認します。

問題にするべきなのは、トイレそのものではなく、

離席によって勤務や業務にどのような支障が生じているかです。

たとえば、

「午前中だけで合計○分程度離席している」

「その間、電話を他の従業員が代わっている」

「作業工程が止まっている」

「他の従業員に負担が集中している」

という事実です。

事情を確認したうえで問題があるのであれば、

「トイレに行くな」ではなく、

「勤務時間中の離席によって業務に支障が出ているので改善してください」

と伝えるのが基本です。

社長としては、

「今日は帰れ」

「頭を冷やしてこい」

程度の意味だったかもしれません。

しかし、

「もう会社に来なくていい」

となると意味が変わってきます。

従業員から、

「会社から労働契約を終了すると言われた」

と主張される可能性があります。

後になって社長が、

「解雇したつもりではなかった」と言っても、

発言の内容や前後の状況などから、

解雇の意思表示だったのかが問題になることがあります。

勤務態度を注意していたはずなのに、

従業員の問題 → 会社の解雇問題

へと争点を自ら変えてしまうわけです。

アルバイトだったら?

ここで経営者が陥りやすいのが、

「アルバイトなんだから、もう来なくていいでしょ」という考え方です。

アルバイトも労働者です。

したがって、

「バイトだから問答無用で明日から来なくていい」とはなりません。

ただし、アルバイトの場合には重要な確認事項があります。

無期契約なのか、有期契約なのか

たとえば、

「期間の定めなし」

で雇っているアルバイトであれば、

会社からの解雇について基本的に解雇法理が問題になります。

一方、

「2026年4月1日~9月30日」

などの有期労働契約であれば、さらに注意が必要です。

契約期間の途中で会社側から辞めさせる場合には、

「やむを得ない事由」が必要とされるため、

むしろハードルが高くなることがあります。

「正社員じゃないから簡単に辞めさせられる」とは限らないのです。

逆に契約期間が満了する場面では、

更新の有無、

これまでの更新状況、

本人の更新への期待などを確認し、

雇止めの問題として検討する必要があります。

つまり、

正社員かアルバイトかという名称だけで判断してはいけません。

雇用契約の内容まで確認する必要があります。

では、会社はどうすればよかったのか

このケースでは、社長が怒る前に「事実」を集めるべきでした。

①離席の状況を客観的に確認する

いつ、どの程度席を離れているのか。

業務にどのような支障が生じているのか。

       ↓

②本人から事情を聞く

「最近、離席が多いようですが、何か事情がありますか?」

健康上の事情などがないか確認します。

       ↓

③問題を具体的に伝える

「トイレに行きすぎだ」ではありません。

「あなたが席を離れている間、○○さんが毎回業務を代わっており、作業にも遅れが出ています」と、会社が問題としている事実を伝えます。

       ↓

④改善を求め、記録する

何を改善してほしいのかを具体的に伝えます。

改善されなければ、再度指導します。

重要な案件であれば、面談記録や指導書などを残します。

       ↓

⑤それでも改善しない場合

ここで初めて、就業規則、雇用契約、これまでの指導状況、問題の程度などを踏まえ、

懲戒・配置・契約更新・退職勧奨・解雇等の選択肢を個別に検討します。

この事例で本当に怖いのは、

最初は従業員側の勤務態度が問題だったということです。

ところが社長が感情的になって、

「もう会社に来なくてもいい」と言った瞬間、

「休憩ばかりしていた従業員」の問題だったはずが、

「会社から不当に解雇された従業員」という

別の問題に変わってしまう可能性があります。

正社員でもアルバイトでも同じです。

問題社員への対応で会社を守るために重要なのは、

「腹が立ったときほど、処分を口にしない」こと。

そして、

事実確認 → 事情聴取 → 指導 → 改善機会 → 記録 → 処分等の検討

という順序を守ることです。

問答無用の一言より、

正しい手順の積み重ねの方が、はるかに会社を守ります。