社長、大変です。○○さんが逮捕されたそうです

月曜日の朝。

会社に一本の電話が入りました。

従業員のAさんが、休日に店舗で商品を盗んだとして警察に逮捕されたというのです。

社長は耳を疑いました。

Aさんは普段、特別問題のある社員ではありません。

遅刻もほとんどなく、仕事も普通にこなしていました。

しかし、「窃盗」「逮捕」という言葉を聞いた瞬間、社長の気持ちは決まりかけました。

「犯罪を犯した人間を会社に置いておけない。懲戒解雇だ」

ところが、担当者が尋ねます。

「社長、まだ本人から何も聞いていませんよね?」

「でも逮捕されたんだろ?」

「逮捕されたことと、犯罪が確定したことは同じでしょうか?」

社長は言葉に詰まりました。

さらに別の問題も出てきます。

「本人が出勤できない間はどうするんですか?」

「取引先に知られたら?」

「会社名が報道されたら?」

「本人が会社のお金や商品にも手をつけていなかったか確認しなくていいんですか?」

単純に、

「犯罪者だからクビ」

では済まない問題だったのです。

最初に分けて考えたい3つの問題

このようなケースでは、感情的に処分を決める前に、

①刑事事件の問題
②会社で働かせることの問題
③懲戒処分の問題

を分けて整理する必要があります。

特に重要なのが、

「逮捕=有罪確定」ではない

という点です。

逮捕されたという情報だけで、会社が直ちに「窃盗をした」と断定して懲戒解雇するのは慎重であるべきです。

まず、何が起きたのかを確認します。

数日後、Aさん本人と連絡が取れました。

本人は窃盗したこと自体は認めています。

しかし、事件は完全な私生活上の出来事でした。

会社の商品を盗んだわけでもありません。

勤務時間中でもありません。

会社名を使って犯罪をしたわけでもありません。

ここで社長は再び悩みます。

「犯罪をしたのは事実だ。それでも会社は関係ないということになるのか?」

そう単純でもありません。

私生活上の犯罪であっても、内容や重大性、本人の職務、会社の信用への影響などによっては、企業秩序との関係が問題になる場合があります。

反対に、

私生活上の犯罪をしたというだけで、どんなケースでも懲戒解雇できるわけでもありません。

たとえば「仕事との関係」で意味が変わる

同じ窃盗でも、

一般の従業員が休日に起こした事件と、

会社のお金を管理する経理担当者

では、会社として考えるべき問題が違ってきます。

現金・商品・顧客の財産を扱う職種であれば、職務上必要な信用との関係も検討する必要があります。

さらに、

会社の商品を盗んでいた

となれば、話は大きく変わります。

会社内の窃盗であれば、企業秩序に直接関係する問題だからです。

だから、

「窃盗=この処分」

と機械的に決めるのではなく、事実関係と職務との関連性を整理する必要があります。

まず「処分」より「事実確認」

会社が最初に行うべきことは、

「懲戒解雇通知書を作ること」ではありません。

まず確認します。

  • 逮捕されたという情報は確かなのか
  • 何をしたとされているのか
  • 本人は事実を認めているのか
  • 事件は勤務中か、完全な私生活上か
  • 会社や取引先が被害を受けていないか
  • 会社の信用に具体的な影響が出ているか
  • 本人の仕事内容と犯罪との関連性はあるか
  • 就業規則の懲戒事由はどうなっているか
  • 過去の勤務態度や処分歴はどうか

そして、可能な範囲で本人にも説明・弁明の機会を設けます。

会社の中も確認する

意外に重要なのがここです。

たとえば商品を扱う従業員が外部で窃盗事件を起こしたのであれば、

「会社でも同じことをしていないか」

というリスク管理上の確認は必要になるでしょう。

ただし、

「窃盗で捕まったのだから、会社でも絶対盗んでいる」

と決めつけるのは違います。

在庫差異や金銭管理など、必要な範囲で客観的な確認をします。

疑うことと、確認することは違います。

逮捕中の勤怠を曖昧にしない

本人が身柄を拘束されれば、当然出勤できないことがあります。

ここで、

「逮捕されたから自動的に無断欠勤」

「犯罪者だから当然無給」

などと即断するのではなく、

就業規則、欠勤・休職制度、本人との連絡状況などを確認して、勤怠上どのように扱うのかを整理します。

刑事事件と労務管理は、分けて考える必要があります。

懲戒解雇ありきにしない

最終的な処分を考える際には、

事件の重大性、会社との関連性、職務内容、会社の信用への影響、本人の説明、就業規則、過去の処分との均衡など

を総合的に検討します。

戒告などで済むケースもあれば、重い懲戒処分が問題になるケースもあります。

事案によっては懲戒解雇まで検討すべき場合もあるでしょう。

重要なのは、

「犯罪をしたから懲戒解雇」ではなく、「なぜこの事案では、この処分が相当なのか」を会社が説明できることです。

事件を知った直後、

「犯罪者を雇っておけるか。今日付けでクビだ!」

と処分してしまうことです。

後から事実関係が違っていた。

不起訴になった。

就業規則に想定した懲戒事由がなかった。

私生活上の行為と会社との関係を十分検討していなかった。

本人の話を一度も聞いていなかった。

そうなれば、

従業員の犯罪問題とは別に、会社自身が「解雇の有効性」という新しい紛争を抱えることになります。

この事例から考えたいこと

従業員が逮捕された。

経営者が動揺するのは当然です。

しかし、重大な問題が起きたときほど、

事実確認 → 会社・職務との関連性 → 本人の説明 → 就業規則 → 処分の相当性

という順番が重要になります。

「悪いことをしたのだからクビ」という感情と、「会社としてどのような処分ができるのか」という労務管理上の判断は、同じではありません。

問題社員対応で会社を守るのは、厳しい処分そのものではありません。

重大な問題が起きても、正しい手順で判断できる会社であること。

それが最終的に会社を守ります。