人の心は縛れない⁉

人の心は縛れない⁉男女の関係も、会社と従業員の関係も。

人の心を縛ることはできません。

それは、男女の関係でも、会社と従業員の関係でも同じです。

「ずっと好きでいてくれる」

「絶対に裏切らない」

「この会社を辞めない」

「会社のために頑張り続ける」

そんな未来を、誰かに100%保証してもらうことはできません。

だから、人は不安になります。

しかし、ここでもう一つ考えてみたいことがあります。

私たちは、本当に「相手」を信じられないのでしょうか。

それとも、

本当は「自分」を信じられないのでしょうか。

ある夫婦がいました。

妻は夫を愛していました。

ところが夫は、ある頃から不安を感じるようになります。

「最近、以前より話してくれなくなった」

「スマートフォンをよく見ている」

「本当に自分を愛しているのだろうか」

妻は何度も言います。

「大丈夫だよ」

「あなたのことを大切に思っているよ」

その瞬間は安心します。

ところが、しばらくすると、また不安になります。

なぜでしょう。

もしかすると問題は、

妻の愛情の大きさだけではなかったのかもしれません。

心の奥に、

「自分なんて大した人間ではない」

「自分より魅力的な人はいくらでもいる」

「こんな自分を、ずっと愛してくれるはずがない」

という思いがあったとしたらどうでしょう。

相手がどれだけ、

「愛している」

と言ってくれても、

自分自身が、

「自分は愛されるに値する人間だ」

と思えなければ、その愛情を受け取ることが難しくなることがあります。

そして、

「いつか捨てられるのではないか」

という不安から、

「どこにいたの?」

「誰といたの?」

「スマホを見せて」

と確認するようになります。

最初は確認だったものが、やがて監視になります。

妻は息苦しくなり、夫と話すことを避けるようになる。

すると夫は、

「やっぱり何か隠している。」

と思います。

さらに疑う。

さらに監視する。

妻はさらに離れていく。

そして最後には、本当に二人の関係が壊れてしまいます。

恐れていた未来を、

自分自身の不安によって引き寄せてしまったのです。

会社でも同じことが起こります

ある会社に、非常に優秀な従業員がいました。

社長はその社員を高く評価し、大切な仕事を任せていました。

ところが社長は、ある日ふと思います。

「こんな優秀な人間が、いつまでうちにいてくれるだろう」

「あの会社なら、もっと給料を出せる」

「その気になれば独立だってできる」

「いずれ辞めるのではないか」

これは社員への不信でしょうか。

もちろん、それもあるでしょう。

しかし、その奥には別の問題が隠れている場合があります。

「自分の会社には、優秀な人が残ってくれるだけの価値があるのだろうか」

という、会社自身への自信のなさです。

すると経営者は不安になります。

報告を増やす。

権限を減らす。

重要な情報から外す。

他の社員との会話まで気にする。

「辞めるつもりじゃないよな?」

と何度も確認する。

社員からすれば、

「あれだけ信頼してくれていた社長が、自分を疑い始めた」

ということになります。

やがて社員は本音を話さなくなる。

すると社長は、

「やっぱり最近、何かおかしい。」

と思います。

さらに管理する。

社員はさらに心を閉ざす。

そして、ある日。

社員が退職届を持ってきます。

社長は言います。

「やっぱり辞めるつもりだったんじゃないか。」

しかし、本当にそうだったのでしょうか。

もしかすると、

「辞めるかもしれない」と恐れ続けた経営者の行動そのものが、社員を辞めさせる一因になったのかもしれません。

信頼関係の問題には、三つの「信」がある

ここまで考えると、信頼関係には三つの層があることが分かります。

① 相手を信じる

「あの人なら大丈夫」

「この社員なら任せられる」

これは一般的にいう「信頼」です。

しかし、それだけでは不十分なことがあります。

② 自分を信じる

「私は愛される価値のある人間だ」

「仮に何かが変わっても、自分は大丈夫だ」

会社なら、

「この会社には、人が働き続けたいと思える価値がある」

「問題が起きても、私たちは話し合い、改善していける」

という自己信頼です。

③ 関係を信じる

さらに大切なのが、

「何かあっても、この人とは話し合える」

という信頼です。

相手の気持ちが永遠に変わらないことを保証するのではありません。

変化があったときに、

隠すのではなく話せる。

疑うのではなく聞ける。

意見が違っても対話できる。

問題が起きても修復できる。

そうした関係そのものへの信頼です。

「永遠に変わらないこと」を求めるほど苦しくなる

そもそも、人の心は変化します。

男女の気持ちも変わるかもしれません。

従業員の人生も変わります。

会社の状況も変わります。

だから、

「絶対に変わらないでほしい」

という安心を相手に求め続けると、苦しくなります。

安心とは、

「相手が永遠に変わらないこと」

だけから生まれるものではありません。

むしろ、

「何かが変わったとしても、自分は向き合える」

という自分への信頼からも生まれます。

だから、人の心を縛らない

会社は、労働契約によって従業員の行動について一定の約束をすることはできます。

しかし、

心まで契約することはできません。

会社への愛着も、

上司への信頼も、

仕事への情熱も、

命令によって生まれるものではありません。

男女の愛も同じでしょう。

「私を愛し続けなさい」

と言われて愛情が深くなるわけではありません。

だから、

人の心を縛ろうとするのではなく、相手が自分の意思で「ここにいたい」と思える関係をつくる。

それしかないのだと思います。

解決のヒント

信頼関係が不安になったとき、

すぐに相手を疑うのではなく、一度自分にも問いかけてみます。

「私は、何を怖がっているのだろう。」

裏切られることなのか。

捨てられることなのか。

社員が辞めることなのか。

自分に価値がないと証明されてしまうことなのか。

そこが分かれば、

「相手を縛る」という解決方法以外の選択肢が見えてきます。

話す。

聞く。

改善する。

感謝を伝える。

必要なルールは、人を疑うためではなく仕組みとして整える。

そして、自分自身や自分の会社も成長させていく。

だから必要なのは、

「絶対に裏切らない人」を手に入れることではありません。

相手を信じること。

自分を信じること。

そして、

何かが変わったときにも話し合える関係を信じること。

男女でも、

会社と従業員でも、

信頼とは、

「この人は永遠に変わらない」と信じ込むことではなく、
変化する可能性まで含めて、それでも相手と向き合おうとすること

なのかもしれません。

人の心は縛れない。
だから、縛らなくても続く関係をつくる。

そのためには、相手への信頼だけではなく、

自分自身への信頼も必要なのです。