はじめに |
今回の動画では、「不当な「配置転換」。拒否するとどうなる!?半沢さんが争うには?」についてご説明させていただきます。
『東京中央銀行』に勤務する『半沢さん』。『人事異動』とは、会社の命令で、配置・地位・勤務状態などを変更することです。
『人事異動』には、色々な種類があります。キーワードは、『勤務地』・『雇用関係』・『同意』です。この動画を見ることで、ドラマ『半沢直樹』が各段にもっと楽しくなります。
キーワード ・『勤務地』・『雇用関係』・『同意』 |
それでは、混乱しやすいものを見ていきます。
異動にも色々な種類がある |
『配置転換』
同じ勤務地、同じ事業所の中で、『働く場所』が変更になること。 |
まず、『配置転換』。同じ勤務地、同じ事業所の中で、『働く場所』が変更になることです。例えば、大阪西支店内の営業課から、同じ店内の融資課への変更です。
『転勤』 違う勤務地、違う事業所に『働く場所』が変わること。 |
次に『転勤』。違う勤務地、違う事業所に『働く場所』が変わることです。例えば、『東京中央銀行』における『東京本社』から『大阪西支店』に変わるケースです。このように生活に影響を与えるレベルの変更もあれば、『新宿支店』から『渋谷支店』など、生活に何ら影響を与えない変更もあります。
『在籍出向(出向)』
『他社(東京セントラル証券)』の事業所で勤務すること。 ※『東京中央銀行』社員としての雇用関係は継続したまま。 |
次に『出向』。2種類あります。『在籍出向(出向)』と『移籍出向(転籍)』です。
前回シリーズのラスト、半沢さんは、2階級特進が期待されたのが、大どんでん返しで「東京中央銀行」から「東京セントラル証券」へ出向となりました。
『在籍出向(出向)』の場合も『移籍出向(転籍)』の場合も、『他社』の事業所で勤務することになるのは同じです。ここでいう『他社』とは、『子会社』や『関連会社』のことを言います。半沢さんは、「東京中央銀行」の子会社、「東京セントラル証券」に出向となりました。
違うところは、『雇用関係』です。もし半沢さんが『在籍出向(出向)』だった場合、『東京中央銀行』社員としての雇用関係は継続したまま。
『移籍出向』の場合は、雇用関係を終了させます。つまり、「東京セントラル証券」の社員になるということですね。このため、『移籍出向』は、別名、『転籍』といいます。
『移籍出向(出向)』
『他社(東京セントラル証券)』の事業所で勤務すること。 ※「東京セントラル証券」の社員になる。 |
異動を拒否できるのか |
『人事異動』▶原則、労働者は拒否できません。 |
『人事異動』は、原則、労働者は拒否できません。もし半沢さんが断ると、「懲戒」の対象になります。最悪、懲戒解雇になるケースもあります。1人のワガママを許すと、その後、『他の社員』も命令に従わないということが起きる可能性があるからです。
日本は『終身雇用制』で『長期的な雇用が前提』。だから、会社は労働者を簡単に解雇できない。その分、『会社の人事権』を強くするという理屈です。
・『転勤』▶半沢さんの同意は不要。 ・『配置転換』▶半沢さんの同意は不要。 ・『在籍出向(出向)』▶半沢さんの同意は不要。 ・『移籍出向』▶半沢さんの同意が必要。 |
極論、『転勤』・『配置転換』・『在籍出向(出向)』については、半沢さんの同意はいりません。拒否できません。
但し、ここには2つの前提があります。個人と取り結ぶ『雇用契約』上で『勤務地』や『職種』が限定されていないこと、就業規則上に「それらを命じることができる旨」が定められていて、実際にこれに基づいて頻繁に行われていることです。
反対に、『移籍出向』は、半沢さんの同意が必要です。今回の異動は、「東京中央銀行」から子会社の「東京セントラル証券」への異動。
「東京セントラル証券」の社員になるという『移籍出向』であるのであれば、基本、半沢さんが拒否すれば、この辞令は実現しません。実際、前回シリーズラスト、頭取が『ぜひとも受理してもらいたい』と半沢さんに配慮しています。
ただ、すこしずるいなと思うのは、「東京中央銀行」における出向は、当初は本人の同意のいらない『在籍出向(出向)』。3年が過ぎた頃、『移籍出向(転籍)』に切り替わるということです。
『配転命令』の有効性(前提) |
『移籍出向(転籍)』はともかく、『配置転換』を断ることは、『業務命令違反』で、『懲戒処分』の対象。ですが、当たり前ですが、権利濫用は許されません。
それでは、半沢さんが『在籍出向(出向)』を断って、最悪、解雇となった場合、具体的にどのような点が論点となるのでしょうか。
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- 就業規則における定め。
「東京中央銀行」の就業規則において、『配置転換に関する定め』がどうなっているかということです。就業規則や労働契約に『配転命令を行う根拠』が必要です。
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- 雇用契約の内容
半沢さんの雇用契約において、『勤務場所』・『職種』に限定の合意があるかどうか。・・です。
「事務職」限定など、特別の約束がある場合、約束した以上、「東京中央銀行」も、『一方的に出向を命じること』はできません。また、半沢さんに拒否されたからといって、懲戒処分を課すこともできません。
半沢さんは、「東京中央銀行」に『総合職』として入社しています。ですから『職種』の限定はありません。やりがいがあるが、責任も重い。通常、全国転勤がある立場です。
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『権利濫用』ではないか。
『人事異動』は原則、拒否できないことはお話いたしました。ですが、会社に『配転命令権』があるとしても、なんでも自由自在に命じられるわけではありません。権利濫用は、当然許されません。
『配転命令』の有効要件
・『業務上の必要性』 ・『動機、目的』 ・『生活上の不利益程度』 |
その線引きは、『業務上の必要性(①)』・『動機、目的(②)』・『生活上の不利益程度(③)』の3点から判断されます。
①『業務上の必要性』
『配置転換の業務上の必要性の程度』と、『配置転換によって労働者が被る不利益の程度』とを天秤にかけます。
基本的に『業務上の必要性』は、『会社の合理的運営に寄与するもの』であれば問題がないとされます。例えば『組織の年齢、地位的な構成を適正にするため』だとか、『業務のマンネリ化の解消』といった理由でも構わないのです。
『なぜ近藤じゃなくて、私なんだ』という反論も通じません。『余人をもって代え難いという、高度の必要性に限定しない』とあるからです。
②『動機、目的』
『軋轢のあった社員』を退職に追い込もうという意図がうかがわれる場合には、この『業務上の必要性』のチェックが厳しくなります。
半沢さんの場合、「東京セントラル証券」への出向が決まる前に、大和田常務と大バトルを繰り広げました。結果、大和田常務は、単なる『取締役』に降格、東京本社に残ります。異例の軽い処分です。
一方、半沢さんは子会社へ出向・・。もし半沢さんが、これを不服として裁判をおこせば、間違いなく『権利濫用』という点で銀行は不利です。
頭取がそのようなことも予測せずに、出向を命じたとは思えません。今回の理不尽な出向は、半沢さんに対する『敵意』ではなく、深い、深い想いがあって行ったことと思われます。
実際に、『配置転換を拒否したことを理由に行われた懲戒解雇』が無効になった裁判例もあります(目黒電機製造事件 東京地裁 平14.9.30判決 労経速1826号3頁)。
③『生活上の不利益程度』
半沢さんが裁判を起こす場合、戦う材料はもう一つあります。息子のタカヒロくんです。
『育児・介護休業法』には、「育児中や介護中の労働者に対する配慮」を求める規定があります。こうした人たちは、『配置転換によって被る不利益の程度』が高い。高くなった分だけ、『配置転換が無効になる可能性』も高まるのです。
ただ、ここでいう「配慮」とは、必ずしも「配置転換をしてはならない」と言う意味ではありません。また「労働者の負担軽減のための、積極的な措置を求めているものでもない」とされています。
但し、「東京中央銀行」が、この問題について、真摯に対応していないことが明らかな場合、『配転命令』が無効となる可能性があります。
労働者が勝った裁判例(フットワークエクスプレス事件 最高裁 平成10.11.17)
『病気の家族を抱え、単身赴任も、一緒に連れて行くことができない社員』に対して行われた配転(転勤)命令』が権利濫用と判断された。 |
ただし、単に「息子のタカヒロを転校させたくない」という反論では、濫用と認定されません。
最後に |
前回のシリーズで、半沢さんは大和田常務に対してこんなことを言っています。
『覚えていようといまいと、関係なく、「貴方のしたことの責任」はきっちりと取っていただく。人の善意は信じますが、やられたらやり返す。倍返しだ。それが私の流儀なんでね。』
『強烈な決め台詞』ですが、半沢さんはなぜ視聴者の共感を得るのでしょうか。それは、半沢さんが、大和田常務のように『自分の利益のため』ではなく、『他の人の幸せのため』に行動しているからです。ドラマ半沢直樹の影響で、『単なる復讐』だけを真似する人が増えないことを願っています。
・・・個人の意見です。
「悔しくやるせない気持ちを晴らしたい。」……という気持ちはお察ししますが、『人を呪わば穴二つ』と言います。『一番良い復讐の仕方』は、そもそも復讐しないこと。悪意に対して笑顔を見せることではないでしょうか。『怒りを抑えて、自分はこんなに幸せになれるのだ』と示す、それが最高の復讐だと私は考えています。
『人を呪わば穴二つ』:他人を呪って殺そうと墓穴を掘る者は、その報いで自分のための墓穴も掘らなければならなくなる。人に害を与えれば結局自分も同じように害をうけることのたとえ。
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