
「なぜですか?」その一言に、苛立った日
ある会社で、ベテラン課長のQQさんは、長年ずっと同じやり方で部下に指示を出してきました。「いいから、これをやっておいて」――理由を説明せずとも、部下たちは黙って動いてくれるものだと、当たり前のように思っていました。
新入社員のRRさんが配属されてきたある日、QQさんはいつも通り、簡潔に指示を出しました。「この資料、この形式でまとめておいて」
すると、RRさんは静かに尋ねました。
「あの、これは何のために、この形式でまとめるんでしょうか」
QQさんの中に、小さな苛立ちが生まれました。「いいから、言われた通りにやればいいんだ」。その一言を飲み込みながらも、表情には出てしまっていたかもしれません。RRさんはそれ以上聞くのをやめ、黙って作業を始めました。
しかし、出来上がった資料は、QQさんが本当に必要としていたものとは、微妙にずれていました。
RRさんは「言われた通り」にはやっていましたが、目的を理解しないまま作業していたため、判断が必要な細部で、的外れな選択をしていたのです。
QQさんはやり直しを命じながら、内心でこう思っていました。「最近の若手は、指示待ちで応用が利かない」と。
ある日、QQさんは、ふと考え直してみました。RRさんが最初に発した「なぜですか」という問いは、本当に反抗や甘えだったのだろうか、と。むしろあれは、目的を理解した上で、良い仕事をしたいという意思表示だったのではないか。
QQさんは、次の指示から、伝え方を変えてみることにしました。「これをやっておいて」ではなく、「この資料は、来週の役員会議で使う。数字の根拠が伝わることが大事だから、この形式でまとめてほしい」と、先に目的を添えて伝えたのです。
結果は、明らかに違っていました。RRさんは、目的を理解した上で、指示された範囲を超えて、分かりやすい補足資料まで自主的に用意してきました。QQさんは、驚きながらも、腑に落ちるものを感じていました。
対策として押さえるべき点は、次の通りです。
まず、「なぜですか」という問いを、反抗や甘えだと決めつけないことです。多くの場合、それは仕事の意味を理解し、良い成果を出したいという、前向きな意思の表れです。
次に、聞かれてから説明するのではなく、指示を出す時点で、目的や背景を先に伝えることです。順序を変えるだけで、同じ説明が「言い訳」ではなく「共有」として受け取られるようになります。
そして、指示には「何をするか」だけでなく、「なぜそれが必要か」と「どんな状態を目指すか」までを添えることを、習慣にすることです。
さらに、目的を理解して動く部下は、指示の範囲を超えた工夫や提案をするようになることを、実感として知っておくことです。説明にかける時間は、後の成果の質で十分に回収されます。
最後に、これは特定の世代の性質ではなく、情報や理由づけを重視して育った世代に合わせた、必要なマネジメントの更新だと捉えることです。
「言われた通りにやる部下」と、「目的から逆算して必要な行動を自ら考えて動く部下」を分けるものは、本人の資質ではなく、最初にどれだけの理由が渡されたか、その一点にあります。